甲斐 啓二郎 「SHROVE TUESDAY」展

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●概要

 
写真集『骨の髄』に収められたのは、イングランド、秋田美郷、ボリビア、長野野沢温泉、そしてジョージアで伝統的に行われている格闘的な祭事を、その只中に身を投じながら、甲斐啓二郎が撮影した写真の数々です。
彼はこの写真集で、人間の“生”についての本質的な問いに対峙し、生きる意味などということ以前の…人間の本能を写したエネルギー溢れる写真で応答しています。
本書はこの度、第45回伊奈信男賞、第20回さがみはら写真賞を受賞しました。今回のW受賞を記念し、NADiff modernではイングランドの祭事をとらえた作品「SHROVE TUESDAY」の展示販売をいたします。

 
『フットボールの文化史』という本を読み、イングランド中北部の町アッシュボーン (Ashbourne)で、350年以上続くトラディショナルなフットボールが現在も行われていること を知った。ルールは「人を殺さない」「教会に入らない」の2点だけで、街全体がフィールドで 行われる非常に激しいゲーム、とのことだった。その当時、サッカーやラグビーなどのスポーツ写 真を撮っていたこともあり、このトラディショナルなフットボールに興味が湧いた私は、開催日で ある教会暦の「Shrove Tuesday 告解の火曜日」に合わせ現地に向かった。  当日、アッシュボーンのバス停に降り立ち街を散策すると、商店街のショーウィンドウや壁が 壊されないようにベニヤ板で補強されている。このフットボールの破天荒さが想像できる光景だ。 スタート時間の午後2時に街の中心部の広場に行くと、街の名士らしき人物が現れ、いまかいまか と待つ群衆の中にボールを投げ込んだ。あっという間にボールはそれに飲み込まれ、そのままラ グビーでいうモールの状態でジワジワと街の中を移動していき、真冬の空気も手伝ってか、群衆か らは湯気が立ち上ってきている。一際、ボリュウムのある湯気が立ち上っている場所、そこにボー ルはあるのだ。何かに惹きつけられるように、肘打ちを食らいながらも湯気の立ち上る方へ身を 投げ、写真を撮っては逃げ、また突っ込むということを私は繰り返した。  時にボールホルダーがモールから一気に抜け出すことがある。そうすると丸くなっていた群衆が 怒号と共に一気に四方八方へと爆発したように弾け散る。いきなりの出来事に逃げる者とボール ホルダーを追いかける者たちが交錯する。彼らのエネルギーは凄まじい。ボールを追いかけてい るだけなのだが、あまりの真剣さに驚きながらもどこかに滑稽さも感じていたが、私自身あのエ ネルギーに飲み込まれていたのだと、日本に帰ってから気づくことになる。  ここに来た目的は、フットボールのドキュメンタリーを撮るということにあった。帰国し、上 がってきたベタ焼きを見た時、何をやっているのかわからない写真ばかりが目の前にあった。到 底フットボールをやっていたとは思えない。だが、そのわからなさのおかげで、写真には人間の 姿が強烈に立ち現れてきていた。確かにこれはフットボールの原風景なのだろうが、まるで狩猟 でもしているかのような生々しい人間の姿を見て、何が人間をそうさせるのか、そのエネルギー はどこから来て、どこに向かっているのか、という問いが、思いがけず私の眼前に立ち現れてき たのである。この作品はフットボールを撮りにいって撮れなかった失敗作だが、大きな気づきを 与えてくれたのだ。

ー甲斐 啓二郎
 
 

●書籍紹介

『骨の髄』


 

発行:2020年/新宿書房
仕様:W257mm×H250mm
頁数:132頁/上製本
価格:¥5,300+税
 
  

 

●Profile

甲斐 啓二郎 / KAI Keijiro
kai pf
1974 年福岡県生まれ。2002 年東京綜合写真専門学校を卒業。現在、同校非常勤講師。
スポーツという近代的概念が生まれる以前の世界各地で伝統的に行われている格闘的な祭事を、その只中に身を投じながら撮影し、人間の「生」についての本質的な問いに対して写真で肉薄する作品を発表している。
2016 年Daegu Photo Biennale(韓国)、2018 年Taipei Photo(台湾)、2019 年Noorderlicht International Photography Festival(オランダ)どのグループ展に参加。個展多数。写真集に『Shrove Tuesday』(Totem PolePhoto Gallery、2013 年)『手負いの熊』(Totem Pole PhotoGallery2016年)、『骨の髄』(新宿書房、2020 年)がある。
第28 回写真の会賞(2016 年)、昨年刊行した写真集『骨の髄』で第20 回さがみはら写真賞(2020 年)、同名の写真展にて第45 回伊奈信男賞(2021年)を受賞している。

https://www.keijirokai.com/


●お問い合わせ

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