今回も熱気に包まれた小柳帝の映画ゼミ第3回目。
今回のテーマは、「路上へ!~1950年代のストリート・フォトと映画の関係性をめぐって~」。
1950~60年代、フランスで生まれたヌーヴェル・ヴァーグのように、写真だけでなく映画の撮影もスタジオから屋外へ、ニューヨークやその他の都市でも、カルチャーの中心が「路上」へと移り変わっていきました。この時代の写真家と映画監督を中心に、文学やアートの話題とともに語って頂きました。また、現代の映画監督によるこの時代を描いた映画作品にも触れ、文学や美術の要素を取り込み、時代背景や社会問題と密接に係わる総合芸術としての映画の魅力をあらためて感じた講座となりました。
今回取り上げた写真家や映画等をごく簡単にご紹介いたします。
トッド・ヘインズ監督「キャロル」
50年代初頭のニューヨークが舞台。映画のルックについては、ソール・ライターやヴィヴィアン・マイヤーの写真を参考にしている。
ソール・ライター(1923~2013)
ファッション写真家として働きながらもNYの街角でカラー写真を中心に撮影。晩年にその作品性がエドワード・スタイケンなどに評価され、ドキュメンタリー映画も撮影された。
ヴィヴィアン・マイヤー(1926~2009)
本業はナニー(乳母)で生前は写真を発表せず。死後に偶然発見され注目を集め、世界各国で写真展が開催。ドキュメンタリー映画も公開され話題に。1950年代の主にシカゴ等のスナップ写真。
ロバート・フランク(1924~)
スイスからアメリカへの移民。ファッション誌で仕事をしていたが、ファッション業界に嫌気がさしストリートへ。グッゲンハイム財団からの奨学金を受けアメリカ全土を旅して写真を撮影「Les Americans(The Americans)」として出版された写真はあまりに有名。
その後、映画監督となり「プル・マイ・デイジー」などを撮影。
ジャック・ケルアック(1922~1969)
代表作「路上(オン・ザ・ロード)」など、ビートニック文学を代表する文筆家。ロバート・フランクの「Les Americans」の序文を自ら申し出て担当。「オン・ザ・ロード」はフランシス・F・コッポラが映画権を取得し、ウォルター・サレス監督によって映画化されている。
ダイアン・アーバス(1923~1971)
フランクやライター同様、ファッション業界で仕事をしていたが、リゼット・モデルに影響を受け、NYでポートレートを中心としたストリート・フォトを中心に撮影。
ウィージー(1899~1968)
ウクライナ出身、NYに渡る。警察の無線を傍受しいち早く現場に駆け付け陰惨な事件現場等の写真を撮影するスタイルを築き上げた。
ハワード・フランクリン「パブリック・アイ」(1992)は、ウィージーをモデルにした映画。また、最近の作品では、ダン・ギルロイ「ナイトクローラー」(2014)もそうした人物をモデルにした映画である。ジュールス・ダッシン「裸の街」(1948)はウィージーがスチール写真を担当。同名の写真集「The Naked City」は彼の代表作。
映画「拾った女」(1953)
サミュエル・フラー監督作のフィルムノワール。フラーは、ウィージーの撮影していた暴力や犯罪など陰惨な事件を描いた作品で知られ、B級映画の巨匠と呼ばれる。
映画「小さな逃亡者」(1966)
社会主義的な思想があらわれている主に報道写真を標榜した写真集団「フォトリーグ」の一員であった写真家モリス・エンゲルとルース・オーキン夫婦の監督作。街頭ロケのみで構成されている。フランソワ・トリュフォーが感銘を受け、のちに「大人は判ってくれない」を撮影したとされる。
この夫婦による映画は「恋人たちとロリポップ」「結婚式と赤ちゃん」など。
映画「バワリー25時」(1956)
ライオネル・ロゴージン監督作。NYの貧民街バワリーをドキュメンタリータッチで撮影。日本では、ジョン・カサヴェテス監督作「アメリカの影」(1965)と同時に公開された。
映画「マンハッタンの二人の男」(1958)
ヌーヴェル・ヴァーグの父と呼ばれる、ジャン・ピエール・メルヴィル監督作。マンハッタンというタイトルに反し、実際にはそのほとんどがパリで撮影されたが、街頭での撮影が多用されたヌーヴェル・ヴァーグの先駆的な作品。
ウィリアム・クライン(1928~)
アメリカからフランスへ渡って活躍。写真家のちに映画監督。初の短編作「ブロードウェイ・バイ・ライト」(1958)に感銘を受けたルイ・マル監督は、映画「地下鉄のザジ」でクラインに協力を求めた。そのほかに、ファッション業界を揶揄した映画「ポリー・マグーおまえは誰だ」(1966)、「ミスター・フリーダム」(1969)など。
写真家がスタジオを飛び出してストリートに被写体を見出していったように、映画もカメラの軽量化や照明器具の進化などによって路上での撮影がより簡便になり、ヌーヴェル・ヴァーグのように、映画も路上へ飛び出し、また、写真と映画だけでなく、文学やアートも互いに関係しあっている様子がよくわかる、あっという間の90分でした。
●Profile
小柳帝(Mikado Koyanagi)
ライター・編集者・翻訳者・フランス語講師。
映画・音楽・デザイン・知育玩具・絵本などの分野を中心に、さまざまな媒体で執筆活動を行なってきた。主要な編・著書に、『モンド・ミュージック』、『ひとり』、『EDU-TOY』、『グラフィックデザイナーのブックデザイン』、『ROVAのフレンチカルチャー A to Z』、『小柳帝のバビロンノート 映画についての覚書1・2』、また、翻訳書に『ぼくの伯父さんの休暇』、『サヴィニャック ポスター A-Z』などがある。その他、CDやDVDの解説、映画パンフレットの執筆等多数。
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