パペット・アニメーション作品と、昭和の匂いのするオブジェで構成されたインスタレーション作品の双方で注目されてきた村田朋泰。
美術館では、空間をモノと思いで埋め尽くし、ギャラリーでは、まるでアニメーションのひとコマに迷い込んだような濃密な空間にわたしたちを誘ってきました。そのモノに対する尋常ならざる思いは、単なるノスタルジー的感覚を超えて、時間と空間のパースペクティヴの歪みを私たちの日常に突きつけ、甘美なノスタルジーを、その痛みにまで昇華させるものといえるでしょう。
地下ギャラリーは、「そこにあったものが、今はない」をテーマに、つい最近まで60年以上にわたって営業していた『すずらん理容店』をモデルにした作品を展示。彼の町の身近な風景の一つだったが、突然取り壊され、今はあとかたなく駐車場となっているという。
1F入口脇のウィンドウ・ギャラリーは、“絵本”の中に映像が映し出されるインスタレーション作品。エントランス・ロビーにはおなじみのコイン式映像ジュークボックスが設置されました。
更に1F奥の、特別な空間には、村田の新たなシリーズとなるビーズ球の投影による作品を展示いたします。
「継ぎ合わせ」を意味する“splicing(スプライシング)”と名付けられた今回の展示は、記憶の断片を、ひとつの思いや物語に繋ぎ合わせることを意味するのでしょうか。すぎ去りゆく過去と現在を慈しむかのような村田の、オブジェの手触りと、映像による照射を是非ご堪能下さい。
「故き森の絵本/アブレーション、私のプティング」2009 …… ウィンドウ・ギャラリー(エントランス・ロビー)
「スプライシング(splicing)/すずらん理容店」2010 …… ナディッフ・ギャラリー(B1)
「スプライシング(splicing)/朱の路(2002-2010)」2010 …… トイレ(1F)
※スプライシングとは、映像分野では「フィルムを切ってつなぐこと」を意味する。
生物学分野では、ある直鎖状重合体(ポリマー)から一部分を取り除き、残りの部分を結合することをいう。
生物が、遺伝情報を実際に使用するときには、このDNAの設計図をまずmRNA(メッセンジャーRNA)という、DNAによく似ているけれども異なる物質にコピーする。DNAの上にはコピーするとき不要になって切り捨てられてしまう部分(イントロン)がある。切り取る作業はスプライシングと呼ばれ、必要な部分はエキソンという。 |