佐内正史の個展をナディッフギャラリーで開催いたします。
表参道時代のナディッフでは2000年と2005年にそれぞれ個展を行っています。佐内の切り取るイメージは、脳内で独特なことばとも連動しながら、色と形と空気感をそのままに表現し、時代の先端をひた走ってきました。その天才的といっていい写真とことばは、ときにねじ切れて大いにアートシーンなどからははみ出していきました。
ここ数年の自身のレーベル「対照」の最新刊を引っさげて、佐内正史がナディッフに帰ってまいります。
「対照」レーベルの最新刊、『ラレー』の全容を十分にお楽しみいただけます。
1997年、写真集『生きている』で鮮烈なデビューをかざった佐内正史が、初めて自ら私家版の写真集を出版したのは、2002年の『MAP』。デビューからわずか5年後のことです。自分のイメージと美意識に徹底的にこだわったこの『MAP』は、インターネットやナディッフを含む一部書店を介して販売されました。刊行とともに話題をよんで、短期間で売り切れてしまい、いまや幻の写真集となり、古書市場でも入手困難です。
佐内が、写真をめぐる深い思索を通じて、自分のなかに浮かびあがる独特のイメージをかたちにするための本づくりは、構成から造本、流通にいたるまで、すべて手づくりの感覚で手がけられています。さまざまな、仕様や印刷の冒険を必要としたので、既存のルートには乗りにくかったのです。
めざましいスピードで普及したインターネットが拡げるネットワークは、その後、世界各都市に多くのインデペンデント・パブリッシャーや写真家・私家版をはぐくみました。その先駆けとなった佐内事務所の活動は、2008年、独自のレーベル「対照」へとつながっていきます。「対照」は、『浮浪』を皮切りに、2011年の近刊『パイロン』にいたるまでの4年間で、11冊のバラエティ豊かな写真集を生み出しました。
本展「ラレー」は、「対照」レーベルの12冊目にあたる『ラレー』の出版と時期を併せ企画されました。『ラレー』は、白地にタイトルだけが表記されたシンプルなカバーデザインや造本の考え方、写真のレイアウトまで、2011年11月パリフォトで先行発表された『パイロン』と、すべて同様のコンセプトで仕上げられています。
「しばらく(このスタイルで)続けていきたいなって思ってる。おなじ判型で、片面白で、片面写真で、64ページ、32点。写真とか写真集に向かっていこうっていう気分があって、その気分がなくなるまでやっていこうって思ってる」
佐内は語る。「伊賀(大介/スタイリスト)さんと、“東京のスタイリング”(東京の街の風景を伊賀がロケハンし、佐内が撮影)とか、“勉強したくない”(5〜6人集まってビルの高いところに登って新宿を見よう、など)とか、遊びの延長線上でいろいろやってるんだけど、そのなかの一つがラレー。もともとは独立させて本を出そうっていう感じじゃなかった」
最初は、伊賀のすすめる店で、ラーメンとカレーを食べるという、なんでもないことから始まりました。
「そのうち食べる前に写真を撮ろうって感じになり、それでラレーが始まったんです。とくにこれといって何もなく自然に始まった」
企画じゃない、生活でもない。遊んでるようでもある……しかし、最終的には、いつも「実は写真のこと」。
淡々と並ぶ、ラーメン16点、カレー16点の写真。週に6回から、多いときには11回も12回も、ラーメン屋とカレー屋に通いつめた2年間のあいだには、味や店のマナーにとらわれすぎて立ち止まることもありました。しかし、最終的にはいつも、「あぁ、おれは写真家で、写真を撮って、その写真にちゃんと向かっていかなきゃっていう感じを思い出しまして。あたりまえなんだけど」。
会期中には、ラレーを巡るプロセスを伴走した、伊賀とのトークも行われます。「佐内正史 ラレー」展、どうぞお楽しみ下さい。
協 力 :eyesencia |